ニューイングランドIPAとは?

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最近、ニューイングランドIPA(New England IPA)という言葉を国内でも耳にすることが多くなってきました。

ニューイングランドIPAは、大量に使用するフレッシュなホップの香りとソフトな口あたりを重視し、苦味を抑えたビアスタイルです。飲まれたことがあるかたは、今までのIPAとも大きく違うという印象を持たれたのではないでしょうか。

今回お声がけいただき、両国・麦酒倶楽部ポパイさんにて開催されているGood Beer Clubさんの勉強会でお話しする機会がありましたので、その内容を改稿して記事化致しました。

30分程度でしたので詳しく語りきれていないところが多いですが、今後また補足していければと思います。

由来 – ニューイングランドとは?

NewEngland

アメリカ合衆国の東北部。ニューイングランド地方のことを指します。北から順にメイン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コネチカット州の6州をあわせた地方です。

1614年に湾岸を探検したロンドン会社のジョン・スミスがニューイングランドと名付けました。
ちょうど日本では江戸時代が始まった頃になります。

バーモント州からマサチューセッツ州と拡がっていったので、ニューイングランドIPAと呼ばれるようになっています。


名称のバリエーション

ニューイングランドIPAは、バーモントIPA、ノースイーストIPA、イーストコーストIPA、ヘイジーIPAなどの別称で呼ばれることもあります。

  • バーモントIPA(Vermont IPA) – 造り方の起源となった地域から
  • ノースイーストIPA(North East IPA) – ニューイングランドよりも広い範囲(ニューヨーク州やペンシルベニア州、ニュージャージー州など)を含めて
  • イーストコーストIPA(East Coast IPA) – アメリカでのIPAブームを牽引してきたウエストコーストの対として
  • ヘイジーIPA(Hazy IPA) – グラスに注いだ液体の見た目から

  • スタイル?

    ここ数年で大きく知られるようになった造り方であるため、BJCP(Beer Jadge Certification Program)2015年版にはスタイルとして掲載されていません。

    また、Brewers Associationのビアスタイルガイドライン2017年版では「ホップ由来の濁りは許容される」と記載することでアメリカンIPAの中にニューイングランドIPAを包含しています。個別のスタイルとしては明記されていません。

    その一方で、アメリカのビール評価サイトの Beer advocate では、2017年5月にニューイングランドIPAがスタイルの一つとして追加されました。

    また、飲んだビールを記録するSNSの Untappd でも、2017年7月に新しいスタイルとして追加されています。

    BJCP2015において、現在使われているIPAという言葉は意図的にIndia Pale Aleの略として使用されていないことが説明されています。ホワイトIPA、レッドIPA、ブラックIPAなど色も様々です。使っているホップも大航海時代には存在していない香りをもったものがたくさん登場してきています。

    ニューイングランドIPAは苦味は少なく、香り豊かで濁っているため、本当にIPAなのかと疑問に感じている人もいますが、これもまた今のクラフトビールのスタイルに照らしあわせると、フレッシュなホップを主体としたIPAのひとつなのです。

    市場に出ている製品をもとに今後、スタイルとして定められることになるでしょう。


    起源

    造り方の起源を辿っていくと、ヘディートッパー(Heady Topper)に行きつきます。

    The Alchemist – Heady Topper

    Heady Topperは、ニューイングランド地方のバーモント州にあるブルワリー、The Alchemist Brewery が造っているダブルIPAです。

    オーナーの John Kimmich 氏は、1994年から Vermont Pub & Brewey で働き、Greg Noonan氏からビール造りを学びました。そして、2003年11月に The Alchemist を60席のブルーパブとして立ち上げました。そこで造りあげた Heady Topper は、現地でしか飲めないビールでしたが、あまりの美味しさにパイントグラスからこっそりボトルに移して持ち帰るような人たちも出るくらい大人気になりました。
    2011年10月にプロダクションブルワリーが出来てからは缶に詰めて販売されるようになりました。それでも、店頭に並べはすぐに売り切れる状態がずっと続いています。

    缶に詰められることにより、アメリカ中のビールファンに広く知られるようになり、その人気は一気に広がっていきました。

    John Kimmich氏によると、Heady Topper は意図的に濁らせたものではなく、イギリス産の麦芽と6種類のホップの使い方による香りを最大限に活かそうとした結果だということです。

    同じくバーモント州には、Hill Farmstead Brewery というセゾンやIPAをはじめ世界的に評価の高いビールを造っているブルワリーがあります。

    ヘッドブルワーの Shaun Hill 氏は、The Alchemist Brewery がオープンした当初からの常連客で、多くのアドバイスを受けていました。
    その後、ヨーロッパでビール造りを学んだ後、2010年にブルワリーを立ち上げました。
    Shaun Hill氏も同様に、意図的に濁らせているわけではなく、ビールの味と香り、そしてソフトな口あたりを追求した結果だと語っています。


    ニューイングランドIPAの牽引者

    Tree House – Julius

    2011年創業の Tree House Brewing Company は、ニューイングランドIPAを代表するブルワリーです。
    Dean Rohan氏、Jonathan Weisbach氏、Damien Goudreau氏、Nathan Lanier氏の友人グループにより設立されました。
    当初は5バレルの設備でしたが、2015年末に30バレルの設備に拡大しています。

    ボストンから西に車で2時間ほどの場所にあるのですが、平日の朝から多くの人がビールを買うために並んでいます。

    その様子はGoogleMapでも確認することができますので、ご確認ください。

    Julius、Green、Alter Ego、Very Hazy、King Juliusなどなど、ホップの品種と麦芽、酵母の相互作用を理解し、シルキーな口あたりとホップ由来のトロピカルフルーツやシトラスフルーツの香りが爆発するさまざまなビールを造り出し、多くの人を魅了しています。

    その他、ボストンの Trillium Brewing Company、メイン州ポートランドの Bissell Brothers Brewing Company、ニューヨークの Other Half Brewing Company を始めとして多くのブルワリーがニューイングランドIPAを牽引していきました。

    ニューイングランドIPAの拡がり

    さらに2015年後半頃からフレッシュなホップをふんだんに使ったビールの美味しさに気付いた人たちが新しくブルワリーを立ち上げたり、既存のブルワリーでも造りだすようになったところが次々に増えてきました。

    2015年後半から2016年にかけて、評価の高いブルワリーをマッピングしてみました。

    2015年後半〜2016年にかけて

    2017年現在、造り方について様々な情報が交換されており、地理的な場所に限らず多くのブルワリーが造るようになってきています。

    ヨーロッパへの拡がり

    ニューイングランドIPAの波はヨーロッパにも拡がっています。

    ノルウェーのLervig、ベルギーのBrussels Beer Project、イギリス・マンチェスターのClowdwater、スコットランドのBrewdogをはじめ、多くのブルワリーが造るようになってきました。

    2017年には日本でも

    2017/02/17 ロコビア × ワンマン店主 One Man Yellow
    2017/04/01 伊勢角屋麦酒 × T.Y. Harbor Brewery Crossing New IPA
    2017/04/09 伊勢角屋麦酒 × Culmination Brewery Neko Nihiki
    2017/04/28 サンクトガーレン Golden Haze IPA
    2017/04/28 ヨロッコビール New England Miso Soup
    2017/05/03 牛久ブルワリー White IPA (2017)
    2017/05/06 DevilCraft Tokyo Brewery Juicy IPA Vermont-style ver.
    2017/05/09 Y.Market Brewing × のぼりべつ地ビール(鬼伝説) New 鬼ヶ島
    2017/05/16 志賀高原ビール × Gigantic Brewing Company KAGAMI-BIRAKI IPA
    2017/05/16 志賀高原ビール ゆるブルWheat
    2017/05/25 Be Easy Brewing のっつど NEIPA
    2017/06/03 志賀高原ビール New ENGI-LAND IPA
    2017/06/21 常陸野ネストビール × Watering Hole とんこつ
    2017/06/25 North Island Beer(SOC Brewing) Wheat Hop Juice
    2017/07/01 T.Y. Harbor Brewery New England IPA
    2017/07/08 あくらビール・遠野麦酒ZUMONA・
    鳴子温泉ブルワリー・仙南クラフトビール・
    田沢湖ビール・North Island Beer
    Short Summer Session (2017)
    2017/07/14 城端麦酒 × 香林坊ジビルバ New Genki-land IPA
    2017/07/23 志賀高原ビール Snow Monkey IPA 2017 FUJI Rock ver.
    2017/08/12 Outsider Brewing New England IPA
    2017/08/12 ヨロッコビール Hidden Tea Room
    2017/08/16 ヤッホーブルーイング Works Ale #001 NEW ENGLAND IPA 無濾過
    2017/08/17 Y.Market Brewing Lupulin Nectar
    2017/08/27 MARCA テクノホップNEIPA

    2017年に入ると、日本のブルワリーでも続々とチャレンジが始まっています。

    新宿御苑バンブーや幡ヶ谷グレムリンをはじめ、都内の店主一人でやっているビアバーの店主たちがロコビアとコラボして造った「One Man Yellow」が商業ベースとしては最初と言えるでしょう。

    伊勢角屋麦酒の Neko Nihiki、志賀高原ビールの KAGAMI-BIRAKI IPA、ゆるブルWheat、New Engi-land IPA、Y.Market Brewing のNew鬼ヶ島など、ビアバーやイベントなどで飲むことができたかたも多いと思います。

    今までのIPAと違い、苦味を抑えつつ、ホップやイーストの豊かな香りが感じられたのではないでしょうか?


    ニューイングランドIPAを象徴するキーワード

  • Mouthfeel – ソフトな口あたり
  • Juicy – トロピカル/シトラスジューシーなフレーバー
  • Hazy – 濁った/霞がかった色合い

  • Mouthfeel

    ソフトな口あたりに直接寄与しているのが麦芽と水です。

    麦芽

    ベースとなる麦芽は一般的なIPAと同じで、Pale Malt、2Row Malt、Pilsner Malt、Maris Otter などが使われます。
    クリスタルモルトはほとんど使用しません。

    よりソフトな口あたりにするために、高たんぱく質の麦芽やβグルカンを多く含むフレーク化(麦芽化や焙煎せずに加熱処理)した原料を使用することも多いです。

  • Wheat Malt(小麦麦芽)
  • Oats(オーツ麦)
  • Flaked barley / oats / rice /rye / corn (フレーク大麦、オーツ、米、ライ麦、コーン)
  • もうひとつ重要なのは水質です。

    従来のIPAとは大きく異なるニューイングランドIPAの特徴であるソフトな口あたりは、塩化物(Chloride)が多い水質調整によって実現されています。

    通常、IPAのレシピではホップの苦味を活かすため、硫酸塩(Sulfate)を多く(150ppm以上)するのですが、ニューイングランドIPAでは苦味を際立たせないように少なめ(100ppm以下)に調整しています。

    塩化物(Chloride)と硫酸塩(Sulfate)の比率は、1〜3:1が目安となっています。

    塩化物(Chloride):硫酸塩(Sulfate) = 100〜200ppm:75〜100ppm

    CO32- 炭酸 アルカリ度
    Na+ ナトリウム ボディ マウスフィール
    Cl 塩化物 マウスフィール 複雑さ
    Ca2+ カルシウム 硬度 たんぱく質の沈降
    Mg2+ マグネシウム イーストの栄養剤 硬度
    SO42- 硫酸 ホップの苦味を際立たせる

    Juicy

    ジューシーな香りはホップとイーストによってもたらされています。

    ホップ

    ホップの成分

    簡単にですが、乾燥したリーフホップの成分についてご紹介します。

    苦味のもととなるα酸やβ酸は品種によって異なりますが10%ほど。

    そして、精油成分(エッセンシャルオイル)は、0.5〜3%ほど含まれています。

    ニューイングランドIPAでは、トロピカル/シトラスジューシーなホップの香りをつけるため、クラシックなC系ホップ(センテニアル、カスケード、チヌーク、コロンバス)よりも、21世紀に登場したフルーツ系のホップであるシトラ、アマリロ、モザイク、ギャラクシー、エルドラドなど新しいホップを好んで使用しています。

    ジューシー/トロピカルなホップ

    精油成分は3ml/100gほど含まれており、リナロールやゲラニオールをはじめ、様々な香り成分が豊富なのが特徴です。

    ホップの香りことば

    少し話は変わりますが、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアのホップの香りを分析して、12カテゴリに分類した表があります。こちらについては、また別の記事にて詳しく紹介したいと思いますので、軽く触れる程度にしておきます。

    ホップの香りことば

    ホップには様々な香りがありますが、ニューイングランドIPAでよく使用される品種の香りの傾向は、シトラス、スイートフルーツ、グリーンフルーツ、レッドベリーあたりで表現されます。

  • Citra® – グレープフルーツ、メロン、ライム、グーズベリー、パッションフルーツ
  • Amarillo® – グレープフルーツ、オレンジ、レモン、メロン、アプリコット、ピーチ
  • Simcoe® – パッションフルーツ、ベリー、パイン、シトラス
  • Mosaic® – ブルーベリー、タンジェリン、パパイヤ
  • Galaxy™ – パッションフルーツ、ピーチ
  • El Dorado® – パイン、マンゴー
  • イースト

    香りを生成するもうひとつの鍵は酵母(イースト)です。
    Heady Topper で使われている酵母は Conan Yeast というニックネームで呼ばれています。
    John Kimmich氏の師匠である Greg Noonan氏が1990年代の初めにイギリスを旅した際に入手したものだそうで、独立する際に譲り受けたのもを使用しているそうです。

    イギリス由来のイーストは、アメリカンエールイーストに比べると、発酵度(Attenuation)や凝集度(Flocculation)は低めですが、より多くのエステルを生成します。

    余談になりますが、酵母の遺伝子を分析した結果、アメリカンエールイースト(Chico Yeast)の起源はドイツのケルン地域から来たものだそうです。

    ニューイングランドIPAを造る際には、イギリス由来のイースト種が多くのブルワリーで採用されています。

  • Giga Yeast – GY054 Vermont IPA
  • Yeast Bay – VT Ale Strain
  • Omega Yeast Lab – OYL-052 DIPA Ale
  • White Labs – WLP095 Burlington Ale
  • Wyeast 1318 – London Ale III

  • 独特なドライホッピングスケジュール

    苦味を付けずにホップ由来の香りを引き出すテクニックとして、通常の4倍以上ものホップの使用量だけでなく、独特なホッピングスケジュールがとても重要になってきます。

    独特なドライホッピングスケジュール

    アメリカンIPAのレシピでは、煮沸工程においてビタリングホップを加えます。ホップのα酸は、長時間(1時間〜)加熱することにより大部分が苦味成分であるイソα酸に変化していきます。
    ただし、煮沸の蒸気とともに香りの成分は揮発していくため、煮沸時間の最後の方でアロマホップを加え、さらに貯酒の段階でドライホップを行なっています。こうして造られたのがアメリカンIPAのベースになります。

    ニューイングランドIPAでは、煮沸工程(100℃)でのホップ添加を避け、過度なイソα酸の生成を抑えているところがとてもユニークです。

    最初に麦汁を造る際に、FWH(First Wort Hopping)として、少量のホップを加えます。ホップ中のα酸や精油成分が麦汁に溶け出します。または、煮沸工程の最初にホップショット(ホップエクストラクト)を加えるところもあります。
    ベースの苦味としてはペールエールのIBU20くらいをターゲットとしています。

    その後、麦汁中のたんぱく質を取り除くワールプール工程において大量のホップを加えます。
    ワールプールの麦汁はまだ熱いので、添加されたホップのα酸の一部は苦味となるイソα酸に変化します。またホップから大量の精油成分が麦汁に溶け出し、発酵行程でイーストを介した香りの変化が起きます。

    イーストによる発酵が進み、糖度が5〜5.5(1.020程度)になったところでホップを加え更に香りをつけます。

    その後、貯酒(熟成)工程において糖度が2〜3(1.010程度)の終了比重になったところで、2回から3回、4日間ずつドライホップを行なうことにより、さらにホップの香りを引き出しています。


    イーストによる香りの変化

    発酵過程中の香りの変化

    冷却工程を経て酵母(イースト)が添加されると、香りの成分を酵母が代謝し別の香り成分に変化させます。

    サッポロビールの蛸井博士の研究において、酵母によるモノテルペン類の代謝変換経路が紹介されています。

     icon-chain クラフトビールの香りをgeraniol代謝で読み解く- 蛸井潔 – 日本醸造協会誌109巻12号
     icon-chain Varietal Difference of Hop-Derived FlavourYearbook 2006 of the Weihenstephan Scientific Centre of the TU Munich Compounds in Late-Hopped/Dry-Hopped Beers – K. Tako, BrewingScience Vol. 69

    ニューイングランドIPAにおいて発酵前にホップを加えることにより酵母を介して豊かな香りが産みだされるというのは、ブルワーの試行錯誤の成果なのですが、科学的にも解明されているところは面白いですね。


    ホップのコンディション

    ホップの香りを存分に引き出すために様々なテクニックを用いているニューイングランドIPAですが、原料として使うホップのコンディションが悪いと、ジューシーな味わいが損なわれることがあります。

    アメリカンIPAのレシピで使用するホップは1Lあたり4g程度なのですが、ニューイングランドIPAでは4倍、16g以上ものホップを使用しています。
    それゆえにホップのコンディションにとても気を付ける必要があります。

    α酸の酸化を防ぐために窒素充填したパッケージを冷温で保存し、開封したらすぐに使い切ることが肝心です。

    ホップの酸化

    ホップの苦味成分のもととなるα酸やβ酸が酸化すると「フルポン」という物質に変化します。さらに酸化すると構造式のR部分が分離し、不快な香り成分になります。

    これらの不快な香りの成分は、「イソ酪酸」、「イソバレリン酸(イソ吉草酸)」、「2メチル酪酸」などの低級分岐脂肪酸という腐敗したチーズや汗臭さ、納豆のような臭いと表現される香りの原因物質となります。

    フルーティーやジューシーとはかけ離れた香りが混ざってしまうと、繊細な香りが損なわれてしまいますので、品質の良いホップをちゃんと使わなければならないところが難しいところでもあります。


    Cryo Hop

     icon-chain Cryo Hops®

    Cryoは低温という意味ですが、アメリカのYCH(Yakima Chief – Hopunion)が開発した新しいホップ加工技術がありますので、紹介致します。

    これは、ルプリンや精油成分の酸化を抑えるため、氷点下の窒素充填環境下でホップからルプリンを分離して製品化したものです。

    LupuLN2®というルプリンや精油成分を含むパウダー部分は、α酸の含有量でペレットの2倍含まれています。葉っぱ部分が除かれているため、そこから来る渋味を減らすことができます。
    ドライホップとして使用する際も半分〜40%の量で済むため、ホップに吸われて廃棄せざるを得ない麦汁の量も格段に減らすことができるという優れた製品です。

    今まで一部のブルワリーが試験的に使用してきていましたが、2017年から一般向けに商品化されたため、これから多くのブルワリーで使用されるようになることでしょう。

    残った葉っぱ部分も、Debittered Leafという製品になります。
    α酸2〜3%のホップとして使用可能であるため、ピルスナーやサワーエールなどのホップ添加用途として製品化されています。

    Cryo Hops™と、T90ペレットを水に溶かしたときの違いを映像にしたものがありますので、溶け方や色付きの違いなどをぜひご覧ください。


    Hazy

    とにかくニューイングランドIPAは見た目から、ヘイジー(濁っている/曇っている)であるところがフューチャーされがちです。

    でも、もともとペールエールやIPAにおいて濁りは欠点だとみなされていました。

    ビールの濁り

    ビールを濁らせる原因物質はいくつかあります。

  • 酵母(Yeast)
  • たんぱく質(Proteins)
  • ポリフェノール(Polyphenols)
  • 炭水化物(Carbohydrate)
  • でんぷん(Starch)
  • βグルカン(Beta-Glucans)
  • 製品としてのビールに酵母やたんぱく質などが含まれると、沈殿する濁りのもととなり、死滅した酵母は不快な香りを発生させます。

    また、たんぱく質やポリフェノールは冷やすと濁りとして現れるチルヘイズのもとにもなります。

    ビールに含まれるポリフェノールが酸化すると、収斂味や金属味のある濁りとなります。

    糖化されずに残ったでんぷんは低温になると濁ってしまいます。
    βグルカンはゲル状の食物繊維ですが、溶解できないと濁りの原因となります。

    最初のほうにアルケミストやヒルファームステッドのブルワーさんの話に触れましたが、ニューイングランドIPAの濁りは意図して濁らせているものではないのです。

    ニューイングランドIPAの濁り

    ニューイングランドIPAの濁りの主要因は、麦芽の外皮(ハスク)に含まれるポリフェノールと、ホップに含まれるポリフェノールに由来します。
    たんぱく質の多い麦芽ほどポリフェノールは多く含まれます。
    また、大量にドライホップすることによりホップ由来のポリフェノールも通常のビールより多くなります。

    これらのポリフェノールが結合するとコロイド状の物質となります。これがニューイングランドIPAを特徴付けている沈殿しない濁りとなります。

    また、フレークドオーツなどを使用した場合は、フレーク由来のβグルカンが析出するため、それも濁りのもととなります。

    いずれにしろ、意図的に濁らそうとしているわけではないということに注意すべきです。

    見た目を重視するあまり、濁らせようとして小麦を加えたり、活性の悪いイーストの濁りを残したりすることは、あまりに残念な造り方でしかありません。
    それで美味しいビールに仕上がるのであれば良いのですが、たいていは残念な結果に終わることでしょう。

    あくまでも、味わいと香りを追求したがゆえに、仕方なく濁ってしまったということを頭の片隅にでも置いてください。

    ホップ由来の代表的なポリフェノール

  • キサントフモール(Xanthohumol)
  • デスメチルキサントフモール(Desmethylxanthohumol)
  • イソキサントフモール(Isoxanthohumol)
  • 8-プレニルナリンゲニン(8-prenylnaringenin)
  • 麦芽由来の代表的なポリフェノール

  • アントシアノーゲン(Anthocyanogens)
  • ケルセチン(Quercetin)
  • ケンフェロール(Kaempferol)
  • さいごに

    驚くほどのトロピカル/シトラスジューシーな香りと、ソフトな口あたりが感じられるニューイングランドIPAは、造ってから数週間までが飲み頃です。ゆっくり冷蔵庫で寝かしているともったいないです。

    取扱い方は、簡単に言えば牛乳と同じだと考えるのが良いと思います。

    いつどこで造られて、どのように運ばれてきたのか、輸送過程や経過日数などにも注意してみてください。
    ちゃんと低温で保存してフレッシュなうちに飲むことができれば、美味しく楽しめます。

    なかなか現地に行って飲まなければ、本来の美味しさに気付けないため、まだまだ飲むためのハードルが高いのですが、流行や話題として消費するのではなく、フレッシュなものを求め、ホップやイーストの豊かな香りとソフトな口あたりを楽しみ、それぞれのブルワーさんが大切にしたかったものを考えてみると面白いと思います。

    ありがとうございました。

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