だっちょさんが「私がクラフトビールを飲む理由」という素敵なお題を与えてくれたので、せっかくの機会なので書いてみたいと思います。
http://beergeek.jp/archives/1702
目次
驚きに満ちた新しい味わいとの出会い
美味しいビールに出会えること。それはとても幸せなことです。
飲んだときに感じる、この満足感はどこから来るのでしょうか。
ビールには多種多様な色や香り、そして味わいがあります。
飲めば飲むほど最初は気付かなかった香りや味わいの奥深さに気付くことができます。
さらに、ブルワーさんたちがビールにこめた熱い想いを聞くと、より一層ビールに対する興味がわいてきます。
ビールは多様性のあるお酒です。
それをわかりやすく整理したのがビアスタイルです。
イギリスやドイツ、チェコ、ベルギーなどヨーロッパの各地に歴史とともに根付いているクラシックなスタイルのビールは、その土地ならではのビールになっています。
土地の水が軟水なのか硬水なのか、水に含まれるミネラル分の違いによって、ビールの味わいは大きく変わってきます。麦芽やホップ、そして酵母も。その土地ならではの使われ方があるからこそ、独特なビールが生まれたのです。
そしてアメリカでは、禁酒法の撤廃以降、大手の画一的なビールへのカウンターカルチャーとして花開いたのがクラフトビールです。
特定のフレーバーやアルコールを高めたエクストリームなビールだけでなく、クラシックなビールから多くのことを学び、科学的な分析を加えることで今までわからなかったことが明らかになりました。そして、いろんなアイディアを加えることで、数多くのモダンなスタイルのビールが登場してきています。
また、Gose(ゴーゼ)のように一部の地域でしか作られておらず歴史的にも姿を消していったスタイルを発掘し復興させていっています。
クラフトビールカルチャーがビールという飲み物の幅をどんどん広げていっているのです。
現在、世界中で造られているビールの大半はピルスナーです。
でも、ピルスナーは1842年にチェコで生まれ、まだ170年程度の歴史でしかないのです。
これから先、ピルスナーとは違うスタイルのビールが市場から大きな支持を得る可能性は大いにあります。
クラフトビールはブルワーの飽くなき探求です。
先入観にとらわれず、飲み手も様々な味わいを探求することができる楽しみがクラフトビールにはあるのです。
こんなにワクワクする状況なのに、クラフトビールを飲まないなんてもったいない。
これがクラフトビールを飲む理由の一つなのかなと思います。
わからないことが多いこと
ビールに関して、まだまだ解明されていないことがいっぱいあります。
たとえば、糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生成する、ビールにとって欠かせない「酵母」について。
酵母の存在になんとなく気づいたのは1680年頃です。それを Saccharomyces(サッカロミケス)と名付けたのは1837年になってからです。さらに酵母が単離されたのは1888年。今のように単一の酵母でビールの発酵が行われるようになってから100年ちょっとしか経っていないのです。
ビール醸造に使われるエール酵母は S. cerevisiae(サッカロミケス・セレビシエ)、ラガー酵母は S. pastorianus(サッカロミケス・パストリアヌス)/S. carlsbergensis(サッカロミケス・カールスベルゲンシス)という種です。
みなさんも一度はどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?
ラガー酵母は S. cerevisiae と、低温耐性のある S. eubayanus(サッカロミケス・ユーバヤヌス)が交雑して生まれた種であるということがゲノム解読で解明されたのは2008年のことです。
S. eubayanus は ビールやワインの木樽として使われるオーク(楢)に住んでいるそうですが、ヨーロッパには存在しない種だと言われています。
その後の研究により、DNA構造が99%以上同じである酵母が2011年にパタゴニア、2012年にチベットで見つかったとの報告があります。
大航海時代に南米から運ばれてきたのか、シルクロードを辿ってやって来たのか、それとも未発見の別の地域からやってきたのかは結論が出ておらず、科学的にも歴史的にも興味深いテーマになっています。
エール酵母にしても、もともとは野生種だった S. cerevisiae の中から凝集性の高い(酵母どうしが固まり回収しやすい)ものがブルワーによって回収され、次のビールの仕込みに使われるという形で取捨選択されてきました。
ということは、凝集性の低い S. cerevisiae はビール造りに使われてこなかったということでもあります。
改めて考えてみると、凝集性の低い酵母であってもビールに好ましいフレーバーをもたらすものがあるのではないでしょうか?WLP644のように。
そういう酵母を使って造られたビールはどんな味がするのだろう?
なんだかワクワクしてきますよね。
クラフトビールを飲みながら、どんなものから造られているのかということを調べてみると、ビールに対する興味がますます湧いてきます。
これもまた、クラフトビールの楽しみの一つです。
素晴らしい人たちがそこに居るから
改めて思い返すと、自分がクラフトビールをただ漠然と飲んでいるのではなく、深い関心を持つようになったのは、池袋にあるビアバー「vivo!」の影響が大きいと感じます。
メニューにあるビールひとつひとつに丁寧な説明がなされてあり、飲みたいものを選んでいる時も、飲んでいる時も、そして飲んだ後にも様々な情報を与えてくれます。
ビールの名前、どこのブルワリーが造ったのか。それはどんな地域にあるのか。ビールのスタイルや色、アルコール度数、苦味、そしてコメント。
前店長のえむちこさんが発案し、飲んで感じた印象や伝えたいことを一枚のカードにギュッと詰め込み、ひとつひとつのビールが紹介されています。それは、現店長の上様にも引き継がれています。
お店とブルワリーとお客さんの信頼があると、ブルワーさんもチャレンジしてくれます。だからこそ、こういう素敵なビールが生まれたりするのです。
クラフトビールは楽しい!
造っている人たちにはそれぞれの思いがあります。それを提供している人たちにも思いがあります。そして、飲んでいる人たちも。
いろいろなビールを飲んできましたが、まだまだ出会えていない素晴らしいビールがいっぱいあります。
美味しいビールに出会うためにも、これからもクラフトビールを飲み続けていきます。
書きたいことはいっぱいありますが、また追々。
好きだからこそクラフトビールを飲むのです。
Cheers!