植物としてのホップはアサ科(Cannabaceae)の植物で、歴史的にビールに使用されてきたホップは Humulus lupulus という学名で呼ばれる種に分類されています。
植物学の世界では、1859年に出版されたダーウィンの「種の起源」以降、植物の見た目や形態などの類似性をもとに理論的に植物の分類を整理してきました。
ドイツのエングラー(Adolf Engler)の学説を引き継いだ「新エングラー体系」や、クロンキスト(Arther Cronquist)が1988年に発表した「クロンキスト体系」といった20世紀における植物分類の大家によって構築された分類体系があります。
近年、遺伝子を分析する技術が確立され、DNAやRNAの塩基配列を解析することで実証的に植物の系統樹をつくるAPG(Angiosperm Phylogeny Group)=被子植物系統研究グループの「APG植物分類体系」に移行しつつあります。
APGの成果をもとにした分類体系は1998年に「APG System」発表され、2003年に「APG II」、2009年に「APG III」として改訂版が発表されています。
THE ANGIOSPERM PHYLOGENY GROUP. 2009.
“An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”
ホップも旧来の体系では、イラクサ目(Urticales)のアサ科(Cannabaceae)に分類されていましたが、APG植物分類体系ではバラ目(Rosales)のアサ科として分類されるようになっています。
もともとは新エングラー体系のクワ科(Moraceae)に分類されていましたが、クロンキスト体系においてアサ科としてアサ属(Cannabis)とカラハナソウ属(Humulus)が分離されました。
APG植物分類体系ではニレ科(Ulmaceae)のエノキ属(Celtis)や、ムクノキ属(Aphananthe)などもアサ科として整理され、10種類の属が含まれるようになりました。
カラハナソウ属には3種類の種(Species)があります。
- Humulus lupulus L.
- Humulus japonicus Siebold & Zucc.
- Humulus yunnanensis Hu
植物の種は二名法(binominal nomenclature)というラテン語表記で属名と種名を組み合わせて表現されます。ホップであれば「Humulus lupulus」となります。
その後ろに学名を発表した命名者を付与することがあり、「L.」はカール・フォン・リンネ(Carl von Linné)、「Zucc.」はヨーゼフ・ゲアハルト・ツッカリーニ(Josepf Gerhard Zuccarini)の略語になります。
Humulus japonicus は日本や中国、台湾などに生息している植物で、カナムグラ(鉄葎)という和名があります。日本でも道端や荒れ地に自生しており、秋の花粉症の一因になっています。
Humulus yunnanensis は中国を中心に生息している植物です。
Humulus lupulus は1978年に、アーネスト・スモール(Ernest Small)により783種類の植物標本をもとに5つの変種(Varieties)に整理されました。
Ernest Small. 1978.
“A numerical and nomenclatural analysis of morpho-geographical taxa of Humulus"
- Humulus lupulus var. cordifolius
- Humulus lupulus var. lupulus
- Humulus lupulus var. lupuloides
- Humulus lupulus var. neomexicanus
- Humulus lupulus var. pubescens
ビールに使用されているホップは、ヨーロッパや西アジアを中心とした北半球一帯に生息している「Humulus lupulus var. lupulus」になります。
ザーツやカスケードなどは、ホップの品種で、数百種類あります。
他の種についても栽培や研究が進められており、Humulus lupulus var. neomexicanus を使用したシエラネバダ(SIERRA NEVADA)の「Harvest Wild Hop IPA」など、実際に製品として使用されている例もあります。
Humulus lupulus var. neomexicanus の雌株と不明種の雄株からうまれたHBC-438といったホップがアメリカで注目を集めています。
国産ホップでも「南部早生」という品種は、Bullionとneomexicanusを交配させた品種になっています。
今後まだまだ未知のフレーバーをうみだすホップが登場することが期待できますね。